よっつめのはなし/忘れの森の宝物 03

 長老が家に戻ると、ジャマー一味が近づいてきました。
「おいひよこちゃん。今度は自分も浮かせてみろよ。あの岩みたいに落っこちなけりゃいいけどな」
「キシシシシ」
「グフフフフ」
 イタズラーとズールが笑いました。モッちゃんが言い返しました。
「この3人を浮かせてやるといいモル。落っことさないようにね」
「ううっ」
 ジャマーたちは後ずさりしました。
 ルーノも、本当は飛んでみたいのです。今までも、何度か浮いてみようとしましたが、ちょっと浮くと、風の中で体がくるくると回転し、すぐにしりもちをついてしまうのでした。たまにうまくいって、いばらく浮かんでいられることもありましたが、落ちるのがこわくて、それ以上高くへは上がれないのでした。

 するとそこへ、あたりをきょろきょろと見まわしながら、1人の人が近づいてきました。何かぶつぶつとつぶやいています。その人は、ルーノ・ニーフたちを見つけると、声をかけてきました。
「あーキミたち。ちょっとききたいんだけど」
 その人は、ポケットから紙きれを出して広げました。それは、どうやらルーノたちが住むフーチ大陸の地図のようでした。
「ここは『はじまりの樹』のある大陸かね?」
 ルーノ・ニーフには、何のことかさっぱりわかりません。ほかのみんなも口をぽかんとあけています。
 そんなルーノたちを見て、その人は言いました。
「ああごめんごめん。私は考古学者でね。ああコーコガクシャってわかるかい?」
 ルーノ・ニーフたちはそろって首を横にふりました。
「まあカンタンに言ってしまえば、昔のことをしらべている探検家みたいなものだな」
「ふーん」
 ジャマーはつまらなそうでしたが、ルーノ・ニーフは「探検家」という言葉をきいて、わくわくしてきました。考古学者は続けます。
「この前行った大陸のジャングルの奥深くの古代遺跡でこんな物を見つけてね」
 今度は背中のカバンから古そうな本を取り出しました。
「これはすごく昔に書かれたものでね。予言書のようなのだが……なになに。『静かなる湖は、降ってきた光とひとつになるとき、人々で栄えるだろう』」
 するとモッちゃんが言いました。
「湖なら近くにナユタ湖があるモル」
 ルーノにもわかりました。
「降ってきた光って『太陽のカケラ』だ!」
考古学者は次の予言を読み上げました。
『光る石の中より巨大な力を持つ者現れ、世界を支配するだろう』
「光る石から……あのまじんのことじゃねえのか?」
 ジャマーがびっくりした顔で言いました。
 まじんとは、指輪の中から現れ、願いを叶えてくれるかわりに、魂を吸い取ってしまうおそろしいやつでした。
『小さな竜がうばわれるとき、その国は滅ぶであろう』
「ペピルのことだ!」
 ペピルは竜の国の皇子で、国から連れ去られてしまうところをルーノたちが助けたのでした。
 ルーノはびっくりしてしまいました。予言書に書かれていることは、本当に起きているのです!
 探検家はぱたんと予言書を閉じました。
「ここに書かれているのは本当の事だったんだ。ということはこの宝の地図も本物……」
「宝の地図!?」
 ジャマーが大声をあげました。探検家は自分の口にひとさしゆびをあてて、
「しーっ!大きい声を出しちゃダメだよ!誰かに聞かれたらどうするんだ」
「おじさん!オレたちも行っていい?」
「ダメだ」
「何だよケチ!いいよ!みんなに言いふらしてやる」
「わかったよ!しょうがないなあ。だけどこの事は誰にも言っちゃダメだよ」
「おう」
「家の人にもだよ」
「はいはい」
 すると考古学者は腕を組み、うんうんとうなずきはじめました。
「予言と場所は中っている。ということは……」
 考古学者はあたりを見回し、みはらし山を指さしました。
「あそこのてっぺんにあるのが『はじまりの樹』だ」
「なんだ。起源樹のことか」
 ジャマーが言いました。
「宝のありかはこれによると……闇の訪れし前の一刻……どうやらこれは夕暮れ時のことらしい……」
 考古学者はしばらくの間、予言書をぶつぶつ言いながら読んでいましたが、
「わかったぞ。片方の日の光が落ちる直前の、2つの影が交差する地点のいちばん先だ」
 まぼろしぼしでは、2つの光(みなさんの星でいう所の太陽ですね)があり、順番に沈んでいくのです。
「そろそろ夕方モル」
 見ると、片方の光が地平線にかかりはじめていました。みはらし山の影はハチミツ山とまっくら谷の方へ伸びています。影が交わる部分は、ルーノたちのすぐ近くでした。しかし、日が傾くにつれて、影はどんどんと伸びていきました。
「あっちだ!」
 考古学者が駆けだし、ルーノたちも後に続きました。光はだんだん沈んでいきます。
「早く!早く!」
 すばしっこいイタズラーが影に追いつき、みんなを呼びました。でもその間にも影は伸び続けます。みんな一生懸命走りました。そしてついに……ひとつめの光が消えました。
 みんな疲れて、しばらくは誰も何もしゃべれませんでした。
「ここが……宝のある場所か?」
 息を切らしながらジャマーがたずねました。そう、ルーノたちは間に合ったのです。