よっつめのはなし/忘れの森の宝物 02

 ルーノ・ニーフは、自分の家のうらにある、大きな岩がたくさんある空き地にいました。土の中にもぐれるモッちゃんもいっしょです。でも、いやなやつらもいました。ジャマー、ズール、イタズラーのジャマー一味です。3人は大きな岩の上に座ってニヤニヤしながらルーノたちのようすを眺めています。
 モッちゃんが、ルーノ・ニーフと同じくらいの大きさの岩をころがしてきて言いました。
「これくらいの大きさでいいモルか?」
「うん。じゃあいくよ」
 ルーノ・ニーフは、風の力を使って、岩を浮き上がらせようというのです。ルーノは、風にていねいにお願いしました。あの岩を空高く浮き上がらせて元あった場所に戻してください……。
 岩のまわりに砂が舞い上がりました。そしてゆっくりとですが、岩が浮きはじめました。
 ですが、あまり上がらないうちに、すぐにどすんと下に落ちてしまいました。
 ルーノは、何度もためしてみましたが、どうしてもうまくいきません。ジャマーたちは、ルーノが失敗するたびに大笑いしています。
「よーし今度こそ…」
 そこへ長老がルーノたちを見つけてやってきました。
「ルーノ。そこは岩がたくさんあって危ないからこっちで遊びなさい」
「平気だよ。今岩を浮かす練習をしてるんだ」
ルーノ・ニーフは真剣な顔で岩に手をかざしました。
「そんな大きな岩を持ち上げるのはお前にはまだ無理じゃよ」
 長老の言葉にちょっとムッとしながらルーノは言いました。
「無理じゃないよ!だってモッちゃんだってカンタンに岩を運べるし、ジュピだってあんなにたくさん水を持ち上げることができるじゃないか!だからボクももっとたくさん風を使えるようになってやるんだ!」
「空も飛べないひよこちゃんがか?」
 ジャマーがまたからかってきました。
「風ならオレだって使えるぜ」
 そう言って、近くにあった葉っぱを拾って、息で吹きとばしました。
「ほらできた」
 ジャマーたちが笑っています。ルーノはくやしくてたまりませんでした。
 すると長老が言いました。
「風をバカにしちゃいかん。風を上手に使えれば水だって岩だって運べるし、空も飛べる。それだけじゃない。風にはいろいろな力が秘められておるのじゃ」
 ですが、長老は悲しそうな顔になって続けました。
「風の力はすごい。だが時としてそれが大きな災いを招くこともあるのじゃ」
 長老は語りだしました。
「この『風の街ガルバリドゥリサーナ』は、風の民『フラル』によって栄えておった。フラルは風を街の人のために役立てておったが、そこへ風の強大な力に目をつけた者どもがあらわれた。そいつらは、街いちばんのフラル、お前の父フークを仲間にしようとしたが、フークに断られると、他のフラルをおそいはじめたのだ。彼らをおそれたフラルたちは、みんな街から出て行ってしまった。今ごろはどこかの街で力を使わずにひっそりと暮らしていることじゃろう」
「フラルはみ〜んな〜よ〜わ〜むし〜」
 ジャマーが歌いだしましたが、ルーノは真剣に長老の話を聞いています。
「フークは最後まで戦っておったが、街全体が危険にさらされはじめたため、街の人たちのことを考えて自ら街を離れたのじゃ」
「フ〜ラル〜はみ〜んなよっわむし〜」
 ジャマーたちはまだ歌っています。長老はかまわず続けます。
「……本当はお前には風の力を使ってほしくはないのだ」
「でもそしたらずっとジャマーたちにからかわれっぱなしじゃないか!そんなのやだよ!」
 ルーノが言い返しました。
「お前が風の力を使うと、今度はお前が狙われてしまうのじゃぞ」
「大丈夫だよ。すっごく強くなって悪いやつらをやっつけるから」
 すると、長老が大声で叱りました。
「バカもん!そんなにかんたんにやっつけられるような相手ではない!…これはお前の命がかかっていることなのだぞ……そしてお前の命はお前だけのものではないのじゃ……ワシの心にもお前がおる……ワシはもうこれ以上誰も失いたくないんじゃ」
 長老の声はふるえていました。こんな長老をルーノははじめて見ました。
「わかったよ。もうフジュツは使わない」
「ルーノ」
 長老は羽のようなヒゲでルーノ・ニーフを抱きしめました。そしてルーノから離れると、岩の上でさわいでいる3人をちらりと見て、
「でも言われっぱなしじゃ風も怒るじゃろうて」
 そう言って、いたずらっぽい笑みをルーノに向けたあと、こう言いきかせました。
「お前のあやつれる風はまだまだ小さい。でも扱い方次第では、今の力でもこのくらいの岩ならカンタンに持ち上げられるはずじゃ」
「本当?」
「本当だとも。よいか。岩をそのまま持ち上げようとしてはいかん。まずはゆっくりと岩をころがすのじゃ。円をえがくようにな」
 それくらいならルーノにもなんとかできました。やがて岩はゆっくりところがりだしました。
「その調子じゃ。次は円を少しずつ小さくしてゆけ」
 岩がえがく円はだんだんと小さくなっていきました。そして最後には、その場でくるくるとまわるかっこうになってしまいました。回転はぐんぐん速度を増していき——

 ふいに岩のまわりに竜巻が巻き起こりました。すると岩はいきおいよく空に舞い上がりました。
「やったあ!」
 ルーノとモッちゃんは歓声をあげました。そのとたん、竜巻はかき消え、岩はジャマーたちの目の前に大きな音をたてて落ちてしまいました。
 乗っていた岩からころがりおちたジャマーが言いました。
「あっ危ないじゃないかっ」
「最後まで気を抜いちゃいかんぞ」
「ごめんなさい」
 長老にたしなめられてあやまったルーノでしたが、岩を持ち上げられたよろこびで、ついつい顔がほころんでしまうのでした。
 そんなルーノに、長老は言いました。
「風を人の役に立てるのはよいが、みだりに使ってはならん。風に力を借りるのは本当に必要な時だけにしておくのだぞ」
「うん」
「今日の夕食はお前の好きなパンケーキを焼いとくからの。暗くなる前に帰ってくるのじゃぞ」
「やったあ!」