よっつめの話 「忘れの森の宝物」

よっつめのはなし/忘れの森の宝物 01

 ここは竜の国にあるゴラド城。竜の皇子ペピルの住んでいるお城です。その北の塔のてっぺんの部屋に、まっくろな服のゾーシャに連れられて少女が入ってきました。そのあとに、体がトゲだらけのトゲラが続きます。トゲラのしっぽには青くてきれいな宝石の指輪が輝いていました。
 鉄格子のはまった小さな窓がひとつしかない、石で造られた小さな部屋でした。夕暮れ時の窓からは、1匹のコウモリがぶらさがっています。
 入ってきた扉の鍵をかけ、少女をいすに座らせてから、ゾーシャはテーブルをはさんで少女の向かいに座りました。トゲラは壁ぎわのいすにこしかけています。
 ゾーシャが少女に語りかけました。
「話してもらえるね。なぜペピル皇子を連れ去ろうとしたのか」
 少女…ミェニョンはうなずきました。
「はい…それは」
「そうはさせない。魔人」
 急にトゲラがいすからとびおりました。トゲラのしっぽの宝石が青く輝きだし、光の中から大きな何かがあらわれました。
「その子を石に変えろ」
「アイサー」
 トゲラに命令された、角の生えた紫色のそいつは、びっくりしているミェニョンの手に、自分の爪でちょっとだけ傷をつけました。すると、そこからミェニョンの体がみるみるうちに石に変わっていくではありませんか!
「なんだおまえはっ」
 ゾーシャの体から、ゾーシャと一心同体の、まっくろな体のゾーシュがとびだしてきました。が、「魔人」のうでのひとふりで、ふたりとも壁にたたきつけられてしまいました。
「あなたは…指輪の……ま…じ……ん………」
 ミェニョンがさけびましたが、もうそれ以上彼女の声を聞くことはありませんでした。そうです。ミェニョンの体は完全に石になってしまったのです。
 それを見たトゲラが言いました。
「任務完了。ワービュ・ワービュ・ワービュ・サイファ!」
 謎の言葉を口にすると、指輪の魔人は光とともに消え、トゲラのしっぽから指輪が外れました。その時、ゾーシャは見ました。半透明のふわふわしたものがトゲラの頭から出てくるのを。と同時に、トゲラはその場に倒れてしまいました。
「ううう…ゾーシャ…」
 どうやら体が動かないようです。
 するとそこへ、さっきまでぶら下がっていたコウモリがやってきて、指輪をくわえました。半透明のものもコウモリの中へ入っていき、そいつは音もなく窓の外へ飛び去ってしまいました。
 あっという間のことで、ゾーシャには何が起こったのかわかりませんでした。けれど、何かをしゃべろうとしたミェニョンを石に変えてしまった「指輪の魔人」と、トゲラの頭から出てきた半透明のもの、それらを持ち去ったコウモリ………これは、ゾーシャが思っていた以上に、何か、とんでもない事が起こりそうな、そんな気がしてなりませんでした。
「あのコウモリを早くつかまえないと……それに……」
 ゾーシャは、ミェニョンがペピルを連れ去ろうとした時に洞窟にやってきた黒猫の言葉を思い出していました。
『フラルもつかまえることができましたしね』
「………ルーノくんが危ない」