みっつめのはなし/竜の皇子 09

 竜はすぐに赤ちゃんの姿に戻りました。ルーノは急いで赤ちゃんを抱き上げました。どうやらミェニョンは気を失っているようです。
 そこへモッちゃんやゾーシャたちが駆けよってきました。ルシェも、トゲラもみんな元気そうです。
 ルーノは赤ちゃんをゾーシャに渡しました。
「お前…いや、ルーノくん…だったかな」
 ゾーシャがたずねました。ゾーシュはミェニョンをぐるぐる巻きにしています。
「うん」
「よくやってくれた。ありがとうルーノくん」
「ボクがやったんじゃないよ。ペピルがやったんだ。あめ玉がもう1個残ってたみたい。大きな竜になったんだよ」
「なにっ」
 ゾーシャがおどろきました。
「それはあめ玉のせいじゃない。この子が成長した証拠だ」
 そしてゾーシャは続けました。
「この子は竜の国の皇子だ」
 今度はルーノたちがびっくり。
「えらい人だったモルね」
「この子は由緒ある竜族の血を引くお方だ。竜族は竜に変身…竜化することができるのだが、子供のうちはまだそれがうまくできない。竜化することで竜族の子供は成長していくのだが、この子が竜化したのははじめてのことだ」
 すると、どこからか声がしました。
「ルーノー」
「えっ」
 思わずルーノはあたりを見回しました。
「ゾーしゃん」
 また声がしました。
「まっまさか」
 ゾーシャは抱いている赤ちゃんを見つめました。
「ゾーしゃん。おおして」
 赤ちゃんがしゃべりました。
「おお。しゃべれるようになったのですね」
 ゾーシャは赤ちゃんを地面におろしました。
 赤ちゃんーーペピルはゾーシャの足につかまりながら、いっしょうけんめい立ち上がりました。
「みんながポクを守ってくえたからポクもがんばったの。そしたあ竜になえたの。あいがとう」
「光栄です」
 ゾーシャが頭を下げました。
「ななななな何でこここの子はねね狙われたの?」
「おそらく我が国の財宝が目的だろう。この少女を竜の国“ゴルドラド”へ連れて行って話を聞くことにしよう」
 でも、財宝だけが目的だとは思えませんでした。ミェニョンの仲間らしいあの黒猫のことや、ルーノ・ニーフも連れ去ろうとしたことが、ゾーシャはとても気になっていました。
 ルーノ・ニーフたちは、ひとまずガルバリドゥリサーナに戻ることにしました。どうくつの外に出ると、嵐はすっかりおさまっていました。
「トゲラ。キミも一緒においでよ」
 ルーノが声をかけました。
「でも、おで、行く所、ない」
 するとペピルが言いました。
「とげあはポクの友達だ。だかあゴウドアドに来たあいいよ」
「本当かい?」
「うん」
「…ありがとう!」
 トゲラは顔いっぱいに笑みをうかべました。

 風の街へ向かうルーノ・ニーフたちの後ろ姿を、岩のかげから黒猫が見ていました。
「ミェニョンがつかまってしまいました……はい。ミェニョンが私たちのことをしゃべってしまう前に必ず……では次の計画に移ります」
 黒猫は丘の向こうへ走り去りました。

 ガルバリドゥリサーナに着いたルーノ・ニーフたちは、長老の家へ向かいました。モッちゃんとルシェとは、ここでお別れをしました。長老の家の扉を叩くとすぐに長老が出てきました。
「こりゃルーノ!どこへ行ってたんじゃ!早く帰ってこいと言ったじゃろう」
「ごめんなさい」
 ルーノはすなおにあやまりました。頭を下げたルーノのうしろに、ゾーシャがいるのを長老は見つけました。
「おっ…おまえは…ゾーシャ!」
 ルーノはたずねました。
「ゾーシャのこと知ってるの?」
 長老は答えました。
「知ってるとも。このゾーシャはお前の父の友達じゃよ。お前はまだ小さかったから覚えておらんかもしれんが、ゾーシャには何度か会っておるのだぞ」
「お久しぶりです」
 ゾーシャが言いました。
「その子はペピル皇子じゃな?」
「さすがは長老どの。内密に事を進めていたつもりでしたが、すでにご存知とは」
「いや実はじゃな…」
 長老が言いかけた時、
「たーいへーんだーあ!竜の国の皇子が連れ去られたぞー!」
 窓の外をコロリンさんが大声で走り抜けていきました。
「まいったな…」
 ゾーシャは頭をかかえてしまいました。
「心配いらんよ。もう皇子は取り戻しておるではないか。このことを早く彼に知らせてあげることだな」
 ゾーシャは竜の国の使いとして、よくフークに頼みごとや相談などをしにきていたことを、長老はルーノに聞かせてあげました。
「お前の父さんには世話になった」
 それはルーノ・ニーフがはじめて見る、ゾーシャのやさしい笑顔でした。
「もっとお父さんのこときかせてよ」
「そうしたいが…早く皇子やトゲラ、それにこの少女を国に連れて行かないと…」
「そっか…じゃあまた今度ね」
 ルーノはちょっぴりさびしかったけれど…次にゾーシャに会うのが楽しみになりました。
「ルーノくん。皇子を救ってくれたお礼として竜の国に招待したいのだが…」
「えっ本当?」
「ああ。迎えの者をよこそう。もちろんルシェくんとモッちゃんも一緒にな」
 ルーノは目を輝かせました。またすぐにゾーシャに会えるのです。聞きたいことはたくさんありました。
「ポクたちもまってうよ」
 ペピルとトゲラもうれしそうです。