みっつめのはなし/竜の皇子 02

 ルーノ・ニーフも橋の下にやってきました。少女が3人に言いました。
「わたしはミェニョン。遠くの国から来ました。この子が狙われてるの。どこか安全な場所にかくれさせて」
「ねねねねねね狙われてるってわわわわわるわるわるいやややつら?」
 ルシェは顔も出さずにがたがたふるえながら言いました。ルシェはほんとうにこわがりなんです。
「安全な場所ってどこだろう?」
 ルーノ・ニーフは考えました。まっくら谷?それともみはらし山のココノツボシ天文台?いいえ、ヌノー保安官の所かも…。
「それならオイラのうちがいいモル」
「あっそうか!あそこなら安全だ」
 モッグル族の家は地面の下にあるのです。そこにはたくさんのトンネルと大きなどうくつでできた“ラグーモ”と呼ばれる街がありました。
 ですがミェニョンは悲しそうな声で言いました。
「きっと安全な場所なんてないんだわ。どこにかくれても『彼ら』はわたしたちを必ず見つけだすの」
「ひいっ」
 ルシェが殻の中で小さな悲鳴をあげました。
「じゃあ長老の所へ行こう。長老ならきっと解決方法を教えてくれるよ」
 ルーノ・ニーフの言葉に、少女が答えました。
「ありがとう。でもあなたたちを巻き込めないわ。その方の所へはわたし一人で行きます」
「大丈夫モル。街はすぐそこモル」
 するとそこでルシェが体をびくっとふるわせました。
「ルシェは行くのやめとくモル?」
「ちちちちがう。だだ誰かくる」
 ルシェはきょろきょろとあたりをみまわしています。こわがりな分、物音などにびんかんなのです。
 すると、何かくろいものが橋の上をすごい速さで通りすぎました。
「今のは何モル?」
「『彼ら』だわ!」
 ミェニョンは強く赤ちゃんを抱きしめました。
「まままた来る!」
 ルシェがさけびました。
 まっくろなものがまたすごい速さで戻ってきて、ぴたりと橋の上で止まりました。
 まっくろな帽子と、全身まっくろな服を着た男です。
 ルーノ・ニーフたちは、男からは見えない橋の下にかくれました。
 川の水面に映った男が言いました。
「このあたりでにおいが消えている。近くにいるはずだ。風が強くなければとっくに見つけだせているものを…」
 そうつぶやいて、男は風のように走り去っていきました。
「ここにいたんじゃすぐ見つかっちゃう。早く長老の所へ」
 ルーノが立ち上がりました。
「急ぐモル」
 モッちゃんも歩き出しました。
 すると、それまでずっとふるえていたルシェが言いました。
「ボ…ボボボクも行く。あああいつが近くに来たら、みみんなに知らせるよ」
「みんなありがとう」
 ミェニョンは笑顔で3人にお礼を言いました。

 橋の上にあがると、どんどん風が強くなってきているのがわかりました。
「行こう」
 ルーノ・ニーフが言いました。ルシェを抱えたルーノを先頭に、まんなかは赤ちゃんとミェニョン、いちばんうしろはモッちゃんです。
 橋を渡ってガルバリドゥリサーナの街に入ったところで、とうとう雨が降り出しました。
 ついに嵐がやってきたのです。
 みんなは走って長老の家へ向かいました。だけど、途中で、雨にぬれた赤ちゃんが泣き出してしまいました。
「おねがい静かにして。『彼ら』に見つかっちゃう」
 ミェニョンが赤ちゃんをあやしましたが、泣きやみそうにありません。
 するとモッちゃんが言いました。
「あそこに入ろう」
 そこはケーキ屋さんでした。看板には『クリムのふしぎなケーキ店 スウィーザ』と書かれています。こんなに強い風なのに、店からは甘い香りがただよってきます。
「そうだね。あいつはにおいでボクらのいばしょがわかるみたいだけど、この甘い中にいれば捜しだせっこないよ」
 そう言うと、ルーノ・ニーフは店のドアを開けました。