ふたつめのはなし/指輪の魔人 06

 ルーノ・ニーフはとびおきて言いました。
「ホント?どうすればいいの?」
「えーとじゃな…ふむふむ……」
 長老は鼻をずるずるいわせながら、長いこと本を読んでいました。どうやら風邪をひいているようです。
「長老、風邪ひいたの?」
 ルーノはたずねました。
「うーむ。ナユタ湖に入り過ぎてゆざめしてしまったようじゃ」
 長老は、ナユタ湖の温泉がとても気に入って、毎日のように温泉につかっているのでした。いいえ、長老だけではありません。街の人たちも、たくさん温泉に入るようになりました。あんなにひっそりとしていて誰も近寄らなかったナユタ湖は、とてもにぎやかな場所になったのでした。
 ようやく本から顔をあげて、長老は言いました。
「…魔人は常に魔力を発しておる。魔力が出ている間は、決して指輪は外せん。だが、ある時だけ魔人の魔力がとぎれるようだ。その“ある時”とは…」
 ルーノは長老の言葉を待ちました。
 ピニョも真剣な顔で長老を見ています。
 そして長老が口を開きました。
「ある時とは……魔人が目を閉じている時だ」
「えっ?」
「ピ?」
「魔人が目を閉じている時なら、指輪を外すことができるらしい」
 ルーノはほっとしました。
「なーんだ。それならまじんが眠っている時に外せばいいんだ。カンタンだ」
 ルーノは魔人のまねをして、ピニョと笑いあいました。
「ピニョピニョ!」ピニョがルーノに言いました。
「そうだね。まじんに出てきてもらわないと、いつ寝てるかわからないもんね」
 ルーノは指輪に向かって叫びました。
「まじ―――――ん!」
 しばらく待ってみましたが、魔人は出てきません。
「もしかしたら今寝とるのかもしれんぞ」
 長老が言ったので、ルーノは急いでリーサの指輪を外そうとしました。でも指輪は外れません。
 ルーノはもう一度さっきより大きな声で叫びました。
「ま―――――じ――――――――――ん!!」
 やっぱり魔人は出てきません。
「リーサが呼ばないとダメなのかなあ」
「ピニョニョ~」
 ピニョもがっかりです。
 するとリーサがとつぜん起き上がりました。
「何よも――うるさいわね――」
「リーサ!!」
「…あれ?ここどこ?長老ん家?なんで?」
 ルーノは、リーサが倒れてからの事を話して聞かせました。
「そっか。願い事がかなえられなくなるのは残念だけど、食べられちゃうよりマシか」
 そしてリーサは魔人を呼びだしました。
「お呼びでしょうかご主人様」
「うん呼んだよ」
「願い事か?」
「ううん。まじんの事いろいろ聞かせてよ」
「何でも聞くがいい」
「まじんの好きな食べ物って何?」
 リーサは、魔人が魂を食べることを知っていて聞きました。
「それは言えない」
「ふーん・・・命令しても教えてくれないの?」
「そうだ」
「わかったよ」
 リーサはふくれて言いました。
「じゃあ指輪の中に何があるの?」
「私の家がある」
 その質問には答えてくれました。
「そこで暮らしてるわけ?」
「そうだ」
「そこで寝てるの?」
「そうだ」
「やっぱり寝るのは夜?」
「眠くなった時だ」
「気楽ねえ」
 しかし、次に魔人の口から出た言葉は、とんでもないものでした。
「眠るのは10年に1度、1時間くらいだ」