さいしょのはなし/太陽のカケラ 06

 “太陽のカケラ”の炎は消えていませんでした。水蒸気が晴れる前に、煙の中でオレンジ色の光が見えました。
ジュピはがっかりしていました。
「ボク、がんばってもっとたくさん水を使えるようになるよ」
「その気持ちがあればきっとりっぱに水をあやつれるようになるぞ」
 そう言って長老はジュピを元気づけてあげました。
 谷の入口へ戻るとジャマー一味が近づいてきました。
「おいジュピ。見てたぞ。火を消せなくて残念だったなあ」
 ジャマーがにやにやしながら言いました。でもジュピは知らん顔です。
「ぐっ・・・」
 ジュピが相手をしないので、ジャマーはおもしろくありません。
「でも困ったぞ。どうやったらこの火を消せるかのう」
 長老は悩みました。
「水をかけてダメなら海にでも放り込むか?」
 そう言ってジャマーは笑いころげましたが、長老は、
「それじゃ!」
 と言ってひげの羽をバタバタさせました。
「そうじゃよ!海の中へ入れてしまえばいくら“太陽のカケラ”でもすぐに消えてしまうわい」
「でも熱くて近づくこともできないのに、どうやって海まで運ぶの?」
 ジュピがききました。
「おまえがやるんじゃ」
 そう言って長老は、ルーノの頭の上にとまりました。
「えっボクが?」
 ルーノはびっくり。
「できないよそんなこと」
「おまえならできる」
 長老は力強く言いました。
「風の力を使って“太陽のカケラ”を浮かすのじゃ。そして海まで運ぶ」
 すかさずジャマーが言います。
「へん!空も飛べないひよこちゃんにできるわけないだろ」
 ジャマーの言ったことにははらが立ちましたが、ルーノにも“太陽のカケラ”を海まで運ぶなんてできっこないと思いました。
 そんなルーノ・ニーフを見て、長老は静かに語りはじめました。
「ルーノ、おまえのお父さんはとても優秀なフラルだったんだよ」
 ルーノには、お父さんの記憶も、お母さんの記憶もありませんでした。赤ちゃんの時から、ずっと長老に育てられてきたのです。長老はルーノの頭からおりて言いました。
「おまえのお父さん・・・フークのフジュツはすばらしくてな(フジュツとは風をあやつる技術のことです)・・・いつもその力で、困っている人たちを助けてあげとったよ」
 それはルーノにとって初めて聞く話でした。長老は続けます。
「フークの評判はどんどん広まっていって、遠くの国からもその力を借りたいと、たくさん人が訪れるようになった」
 その話を聞いて、ルーノは自分のことのようにうれしい気持ちになりました。
「じゃが・・・フークの力を悪い事に使おうとする者たちがあらわれたのじゃ」
 うれしい気持ちはすぐに消えました。みんな長老の話に聞き入っています。
「それを知ったフークは、もちろんその話を断った。するとその者たちは、秘密を知ってしまったフークの命を狙いはじめたのじゃ」
「ええっ」
 ナッフィが声をあげました。
「危険を感じたフークは、おまえをワシにあずけて身をかくしたのじゃ」
「なーんだ。逃げたのかよ」
「ちがう!」
 ジャマーの言葉に、ルーノは思わずそう叫んでいました。
「ルーノの言う通りじゃ。フークは逃げたのではないぞ。今もきっとどこかで追手と戦っているはずじゃ。そしてまたいつかおまえと会える日を信じてな」
 そう言って長老は羽でルーノの頭をなでました。
 ルーノはなんだか胸がいっぱいになりました。そしてそれは体全体に広がっていって、どんどん力が湧いてくるような気がしました。
「長老。ボクやってみるよ。“太陽のカケラ”を海まで運んでみる!」