さいしょのはなし/太陽のカケラ 05

 ルーノ・ニーフ、ジュピ、ナッフィと長老は、ナユタ湖に向かって歩きだしました。湖が少しずつ近づいてきます。まっくらな、すいこまれるような大きな穴。その中から、大きな怪物が出てくるような気がしました。
 そのとき、とつぜんルーノ・ニーフの足が動かなくなりました。やっぱり本当だったんだ!湖に近づこうとする者は、体が固まって動けなくなっちゃうんだ!
 どんなに歩こうとしても足が前へ出ません。それどころか、体がしびれてくるではありませんか!
「ナッフィ!」
 ルーノ・ニーフは急いで、前をふわふわ飛んでいるナッフィを呼び止めました。
「どうしたのルーノ?」
 ナッフィが戻ってきて言いました。
「体が動かなくなっちゃったんだ!どうしよう!」
 すると、
「あっ!」
 ジュピがさけびました。
「ボクもだ!動けない!」
「ワシもじゃ」
 いつも空に浮かんでいる長老は地面に転がっています。
「このまま動けなくなって怪物に食べられちゃうんだ!」
 ルーノ・ニーフはこわくてこわくて、泣きそうになりました。
 するとナッフィが言いました。
「大丈夫だよ。怪物なんていないし、湖は悪いことなんてしないよ」
「本当?」
「本当さ」
 それを聞いて、ルーノは少し安心しました。するとどうでしょう!固まっていた体が少しずつ動かせるようになってきたのです!
「あっ動く!動くよ!」
 ついにルーノは足を前にふみだしました。もう一歩、もう一歩。大丈夫そうです。いつもの元気なルーノ・ニーフに戻りました。
 ジュピも長老も元通り体を動かせるようになりました。
 そして四人はやっと湖のほとりにたどりつくことができました。
「頼むぞジュピ」
「うん」
 長老にそう応えて、ジュピは湖の上に両手をかざしました。
「・・・・・・」
 ジュピはずっと動きません。ルーノもナッフィも長老も、誰も何も言わず、ジュピを見つめています。
 すると、いつも鏡のように空を映している湖の水面が、ゆらゆらゆれだしました。
 と、次のしゅんかん、ジュピのかざしている両手の下の水面が、むくむくともりあがってきたのです。
 ジュピはゆっくりと両手を上にあげました。水の柱もぐんぐん上に伸びていきます。
 そしてジュピはその両手をまっくら谷の入口の方へ向けました。すると湖の水は、まるでヘビのようにいきおいよくまっくら谷へ進んでいきました。
「よかった。これであの火も消えるわい」
 長老もひと安心です。
 でも、ジュピの手からとんでいった水は、もうちょっとの所で“太陽のカケラ”には届かずに地面に落ちてしまいました。
 ジュピの力では、“太陽のカケラ”まで水を届かせるには足りなかったのです。それでもジュピはあきらめずに、水を届かせようとしています。
「ジュピ!がんばれ!」
 ルーノたちも必死に応援しました。
 ジュピは思いました。ナッフィの言っていたことは本当でした。この湖の水はとってもやさしい水でした。ちっともこわくなんかありませんでした。ジュピは祈りました。どうか届いてください―――
 ぐん、と水が元気になりました。
そして―――
 届いたのです!湖の水は“太陽のカケラ”に当たって、ものすごい量の水蒸気をふきあげました。
「やった!」
 ルーノ・ニーフもナッフィも大喜びです。
 ジュピは力のつづくかぎり、水を谷の入口まではこびつづけました。

 ジュピがへとへとになった時、谷の入口は白い煙でいっぱいでした。湖からも何も見えません。
「消えたかな?」
 ナッフィが心配そうにききました。
「わからないよ。でももう水をもちあげる力もないや」
 ジュピは湖のほとりに座り込んでいます。
「それにしてもよくがんばったな。ジュピよ」
 長老が言いました。
「うん。湖の水が助けてくれたんだ」
 ジュピはこの湖が好きになりました。
「とりあえず谷へ戻ろう。立てるか?ジュピ」
 長老がやさしく声をかけました。
「うん。平気」
 ジュピは、湖から離れる時に、湖をふりかえって、ありがとう、と言いました。