よっつめのはなし/忘れの森の宝物 06

 ルーノ・ニーフたちは森にたどり着きました。もちろん入口なんてありません。考古学者を先頭に、生い茂った草をかき分けながら森の中を進んで行きました。
「帰れなくならないかなあ」
 ルーノ・ニーフが不安げに訊きました。
「私はジャングルなんか数えきれないほど経験してきているんだよ。それに方位磁石も持っているから道に迷うことはないよ」
 考古学者は笑いましたが、ルーノ・ニーフは安心できませんでした。森には何があるかわからないのです。大きな蛇がいるかもしれないし、危険な崖があるかもしれません。森に住む悪い精霊がいたずらをしかけてくる心配もありました。
「ここには近づくなって言われてたから来なかったけど、ここの土はすごくきれいモル」
 モッちゃんがうれしそうに言いました。そう言われてみると、人が足を踏み入れていない森は、緑が美しく、自然の香りにみちあふれていて、とても神秘的に見えました。
 すると、どこかでガサガサという音がしました。ルーノ・ニーフはあたりを見回しましたが、高い草に囲まれているためよく見えません。音はだんだん近づいてきます。考古学者がルーノ・ニーフたちの前に手をかざして、動かないように合図しました。
 突然、目の前に大きな黒いものが現れました。ルーノ・ニーフはもう少しで叫んでしまうところでした。
 ルーノ・ニーフの5倍はある毛モジャの生き物は、たくさんある長い脚を動かして、みんなの前を横切って行きました。


「よかったモル。気づかずに行っちゃったモル」
「危なかった。あんなに大きなちちゅは見たことがない」
 すると今度は横の茂みがガサガサと揺れ、急に何かが飛び出してきました。ルーノ・ニーフはびっくりしてしりもちをついてしまいました。
「何だ。ただのツチノコモルか」
 ツチノコはそのままどこかへ行ってしまいました。
「もう帰ろうよ」
 ルーノ・ニーフが半べそをかきながら言いました。
「何を言っているんだ。冒険に危険はつきものじゃないか。さあ行くぞ」
 考古学者はずんずん先へ進みます。
「戻るモルか?オイラなら帰り道わかるモル」
 モッちゃんが声をかけました。ルーノ・ニーフも、本当は帰りたかったけれど、考古学者のことが心配なので、仕方なくついて行くことに決めました。
 進むたびに、森の緑は深さを増していきました。モッちゃんも、見たこともない土の綺麗さにとてもびっくりしていました。
 すると突然、上をおおっていた樹々が切れ、ぽっかりと空の見える場所に出ました。
 なぜ木が生えていないのかはすぐにわかりました。そこには、小さな泉があったのです。泉の向こう側には、そこだけ草も生えていない岩の洞窟が見えました。
「ここだ……ついにたどり着いたぞ」
 考古学者は体をふるわせています。
「えっ?ここに宝物があるの?」
 ルーノ・ニーフの質問には答えずに、考古学者は洞窟に向かって歩き出しました。
「宝物モルーー!」
 モッちゃんもうれしそうに走っていきました。
 ルーノもその後について行こうとすると、急にうしろから声をかけられました。
「洞窟へ行ってはダメ!」
 振り返ると、そこには花のような姿をした一人の少女が立っていました。
「あなたたちは誰?」
 少女が問いかけてきました。
「ボクはルーノ・ニーフ」
「何しに来たの?」
 少女が怒ったようにたずねました。
「ボクたちは宝物を探しに来たんだ。あのおじさんは探検家で…」
「あそこには、あなたたちが思っているような宝物はないわ。あそこは神聖な場所なの。洞窟には入らないで」
 ルーノ・ニーフは、少女の態度にちょっと腹を立てました。そして訊き返しました。
「キミは誰なの?」
「私はアヤカ。この森とあの洞窟を護っているの」
「ふーん…じゃあ君はこの森に住んでいるの?」
「そんな事はどうでもいいわ。とにかく洞窟には近づけさせない!」
 アヤカという少女の、花のような頭が開き、緑色の長いものが飛び出してきました。少女の頭から伸びたそれは、一瞬でルーノ・ニーフの体をぐるぐる巻きにしてしまいました。
「何するんだっ」
 ルーノ・ニーフはもがきましたが、それはきつく巻き付いていて、体を動かす事ができません。
 するとふいにルーノ・ニーフの体が浮き上がりました。そして大きく振り回された後、急に巻き付いていたものが解けました。ルーノ・ニーフは宙に投げ出されて、草むらの中にころがりました。
「森を出て行きなさい。そうじゃないともっとひどい目にあうわよ」
 アヤカが近づいてきました。緑の長いものが、ぐにゃぐにゃとアヤカの頭の上で動いています。どうやらそれはアヤカの体の一部のようです。
「急にひどいじゃないかっ」
 ルーノ・ニーフは立ち上がりました。
 風の力、フジュツを使おうとは思っていませんでしたが、まるでルーノ・ニーフを守るように小さな風が巻き起こりました。
 それを見たアヤカが言いました。
「あなた……風を……」
 その時、洞窟の中からガラガラと岩が崩れる音が聞こえてきました。